─ 少女の夜話 ─






 わたし愛美(まなみ)って言うの。
 小学校の2年生なの。

 クラスの友達で、みちるちゃんっていう子が居るんだけど、私たち、とっても仲良しだったのね。
 でも、みちるちゃん、何をやってもうまくできなくて、いつも男の子から馬鹿にされるのね。
 かわいそうでしょう?
 だから、みちるちゃんが出来ないことをわたしがやってあげていたの。
 だって、お母さんがいつも、困っているお友達には親切にしてあげなさいって言ってたから。
 折り紙でしょう、ドッジボールの線引きでしょう、 大掃除のガラス拭き。

 みちるちゃん、いつもにっこり笑って
「ありがとう」
って言ってたわ。

 なのに……



 このごろ、「ありがとう」は言うけど、笑わなくなっちゃったの。
 それにみちるちゃん、ほかの子とばっかり遊ぶようになっちゃって…
 わたし、本当は頭の中でみちるちゃんのこと『面倒くさいな』って、ちょっと思ってたの。
 それがみちるちゃんに分かっちゃったのかな?
 いけない子だったよね。

 だから、今日理科の時間、みちるちゃんがお花のめしべがうまく取れなくて困っていたから、取ってあげたの。
 全然、めんどくさいなんて思わなかったよ。
 でも、そのとたん、みちるちゃん、泣き出しちゃったの。

「どうしたの?」
って訊いても、何も言わないで…

 そしたら、みんなが
「愛美ちゃんが悪いんだ!」
って…

 わたし、
「どうしてよ!?」
って言ったよ。 そしたら、
「愛美ちゃんが、全部好きなことをやっちゃって、みちるちゃんにやらせてあげないんだ」
「愛美ちゃん、ずるい!」
って…



 そのあと学級会で、みんながわたしのことを言うの
「愛美ちゃん、威張ってる」
「みちるちゃんのこと、奴隷だと思ってる
「愛美ちゃん、自分のことしか考えない」
って…

「違うよ!」
って、言ったよ。

 でも誰も聞いてくれなかった。
 それで、先生も
「もっとみちるちゃんにも色々やらせてあげようね」
って…



 でも、泣かなかったよ。
 わたし、悪くないもん。
 それで、うちに帰ってから、お兄ちゃんとお母さんに言ったの、学校で有ったこと。
 お母さんが帰ってからだから、夜になってからね。

 そしたらお兄ちゃんは、
「おまえはいつも、やりたいようにやるだけだもんな。 その子のこと考えてやったこと有るか?」
って言うの。

 お母さんもね、
「その子の気持ちになって、よーく考えてごらんなさい」
って。



 わたし、考えたよ。

 考えたから、やったんだもん。

 みちるちゃんがどうして泣いたのか、わかんない。

 でも、誰も教えてくれなかったの。
 分からないのが悪いって……

 お母さんも、今までわたしをいい子だってずーっと褒めてくれていたのに。

 みんな……わたし……を怒るの。

 みんな……わたしを……嫌いなの。

 どうしていいかっ……わかんないよ。

 こんな子ぉ……居ない方がっ……いいんだよ。

 だから、死ぬのっ。



 でも……どうやって死んでいいかっ……うくぅ……わかんないよ!






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