国家の品格
書名:国家の品格
著者:藤原正彦
出版社:新潮社
発行年月日:2005.11.20
定価:680円+税

いま、大ベストセラーになっている本です。著者はお茶の水女子大教授数学者
です。
また新田次郎、藤原ていの次男。「私の話の半分は誤りと勘違い、残りの半分
は誇張と大風呂敷とのこと」(本文より)と断って話を始めている。

 17世紀からの西洋文化、西洋哲学、自由、平等、主権在民、論理的な物の
考え方合理主義が世界を一斉を風靡してアングロサクソン系の考え方が普遍的
とのような感があるが、論理的な考え方の誤謬を指摘している。論理的な考え
方の中に一番問題になるのは出発点を何処に置くか?その出発点が違うだけ論
理が違っている。大げさにいえば65億人それぞれに理屈がある。そのどれも
が一応の理屈は通っている。
 99%は自己の損得で論理付けをしている。現在の数学の場合は100万位
の論理をつなげて、論理展開している。

 ところが普通の論理的といわれている物はそんなに沢山の論理を重ねると何
が何だか判らなくなってしまう。したがって2,3つの理屈を重ねることでみ
んなに判りやすくしている。「風が吹くと桶屋が儲かる」5,6つの論理を重
ねていますね。この中でも危うい論理が有りますね。一つ一つの論理に確率
(起こるであろう)を入れると全く根拠のない事になってしまう。世の中の論
理的な考え方はほとんどの場合こんな危ないものが混じっている。はじめ結論
ありきで出発点を考えている。これが論理的な考え方とされている。

議論に勝って、競争に勝っていかないと生きていけない西洋合理主義、何処か
おかしい。もっともっと大切なものがあるのではないかと投げかけている。日
本という国にはもっともっと良いものがあるではないか?
 例えば「人を殺してはいけない」これは当たり前のこと。だと思うが、理屈
をつけると一人を殺すのはいけない。戦争で大量の殺人は英雄になる。
 子どもに納得する説明をしないといけないと必死になっているが、昔の日本
は、ただ一言「いけないものはいけない」ですね。
 
 盛んにバリアフリー、障害者に優しく等のスローガンを掲げて声高に叫ばな
いといけない現状より。弱いものをいじめてはいけない。そんな卑怯な事はし
てはいけない。いけないものはいけない。理屈も何もない。論理的には説明は
出来ないけれど、それで充分通じた世界が日本にあった。人口何割かが弁護士
、カウンセラーがいる国(アメリカ、日本もそんな道を歩みはじめている)が
果たして将来見本としないといけない国か。それで幸せになるのか?

著者は武士道をベースに西洋的な考え方との違いを比較して、武士道的な考え
方の方がずっと先を行った世界に誇れる考え方だといっている。それも海外経
験の豊富で、数学者という論理的思考が本職という人の論だからちょっと驚い
てしまう。

 小学校で始まっている英語教育、こんなものをやるより国語(=国家)教育
に力を入れるべき。日本語半分、英語半分の中途半端な人間を公立の小中学校
が育ててはいけない。きっちりと日本語を学ばせないといけない。またコンピ
ューター教育も必要ではない。

美しいものを美しいという普遍的な価値観を教えることが必要である。ある意
味では数学というものもこの美的感覚が必要。実は情緒的なものが余裕。した
がって世の中にでて絶対必要ないと思われる数学などの無駄なことを国家をあ
げて人材を育成しているような国は総合的な力がある。生活だけにかつかつの
場合、無駄と思われていることに優秀な人材はさけない。軍事、実業家、政治
家、外交官か?

 もう少し江戸時代、明治時代を見直してみよう。明治時代海外に出て行った
人達は英語などほとんど出来なかったと思うが、それぞれの国でそれなりに尊
敬されている。
それは何故だったのだろう。当時の世界からすれば封建時代といわれた江戸時
代、実は世界でも例のない国内の混乱のない非常に平和な世界を実現していた。
文化も道徳も世界をリードしていた。武士道の視点からいろいろと考察してい
る。

大抵ベストセラーというのは読むほどの価値のない本が多いがこの本は是非と
も読んで貰いたい本だと思う。みんなで共有することによって法律を守れば何
をやっても良いという下品な日本人も出てこないのでは?(法律は最低限守ら
ないといけないこと)

 自然と調和しながら生きてきた日本人の原点にある。「おてんとうさまが
見ている」「卑怯な事はしない」曰く言い難しの思想を改めて考えて見たい。

「いけないことはいけない」理由などいらない。視点を変えた柔軟な見方をま
たひとつ見たような気がします。さすが作家の息子ということで非常に文章が
上手い。語り部ですね。

天才は美しい風景を見て育っている。自然に跪くこころ。役に立たないことに
学ぶ。金儲けには全く役に立たない読書、学問などをしていても許される風土
がある。こんな条件が品格を作っていく、実学ばかりではなく何の役にも立た
ない教養が一番大切、品格が国力を決める。